■新☆仏蘭西黒魔導師 原本小説 1 


多少、ボイスドラマと設定が違う箇所がございますが、ご了承ください。


 
「こんにちは、シャンポリオンおじさま。」
「ああ、こんにちは。ルテティア、元気にしていたかね?」
「ええ、おじさまこそお元気そうでなによりですわ。それで、今日は何の御用でこちらまで?」
「いや、ちょうど私の石碑の研究所を届けに近くまで来たので、それで少し顔を見ていこうと思ってね。ところで君の兄さん達はどうしている?」
「ヴィクトール御兄様は出掛けていらっしゃるけれど…ユークリッド兄さまは部屋で勉強していらっしゃるのではないかしら。」
「そうかね。君の兄さんは勤勉だな。きっとグリフィス家一族に恥じない立派な人になるだろう。」
「そうですね。でも、ユークリッド兄さまはもう少し妥協しても良いような気もしますわ。今日も兄さまはご自分のお誕生日ですのに勉強しているのですもの。」
「…じゃあ私がセーヌ川に散歩に連れていってやろう。さぁ、ルテティア、兄さんを呼んできておくれ。」
ルテティアは2階のユークリッドの部屋にうれしさのあまり早足でかけていった。
コンコン
重そうな黒木のドアを軽くノックする。
「兄さま、ティアです。シャンポリオンおじさまがおいでです。」
「本当かい?うれしいなぁ!あのシャンポリオンおじさまがおいでなんて。今行くよ!」
 ユークリッドは読んでいた本を閉じて、急いで階段を下りて行った。
「こんにちは、おじさま。」
「ユークリッド、誕生日おめでとう。」
「…あ、そうか、今日は僕の誕生日でしたね。ありがとうございます。」
「兄さまったらお誕生日でも部屋にこもって勉強していらっしゃるのですもの。」
「今から三人でセーヌ川に散歩に行こうと思うのだが、どうだね?」
「それはいいですね!」

三人でセーヌ川に向かう

「着きましたね。いつ見ても優雅な川ですね。フランスの象徴と言えるでしょうね。」
「もっともだ。」
 しだいに、遠くから近くへ川の美しさとは似ても似つかぬ紺色の物体が流れてきた。
「…あら?見て、兄さま。何かが流れてきますわ。」
「何だろう…、ん?帽子じゃないか。」
「これはまたずいぶん回転しながら…まるで生きているようだなぁ。」
「拾い上げてみます。」
ジャバッ
「すごいぞ!水を弾いているではないか。」
「それに、星型がきれいね…。魔法使いがかぶっている物のよう。」
「かぶってみましょう。」
 ユークリッドはその帽子をかぶった。
「どうです、おじさま?…うっ…頭が…頭がいた…い…。」
「どうしたのです、兄さま!?」
「逃げるんだ!おじさま、ティア!!僕が…僕でなくなってし…ま…ぅわはははははははははーっ!!!死ぬかと思ったぞ、気が付いたら水の中にいたからなぁ。でもやはり私は天才だったのだ。こうして陸に立っているのだから。まさにジーニアス!」
「おい…ユークリッド、どうしたのだ!?」
「誰だ?きさま。んー?」
「き…君はっっっ!!!」
「フッ、名前などないわ。まぁ呼びたければ神の使者とでも呼んでくれたまえ。アディーショナル!!天才を頭においてね。わかったかな?ムッシュウ。」
「ま…まさか、オッド=スチューピッド…か?!」

オッド=スチューピッド!

 ユークリッド(元)が叫んだので二人はびっくりする。
「よい名だな。それを私の名前としよう。」(満足しているようだ)
「逃げるぞ、ティア!」
「はい!おじさま。」
 二人は必死になって家に向かって走っていった。
「…一体、兄さまはどうなさったのですか?」
「残念だが、最早あれは君の兄さんではない。最悪の症候群、オッド=スチューピッドだ。きっと、あの帽子をはずさない限りユークリッドはオッド=スチューピッドに…。ユークリッドが…、ああっ…だめだ、彼はもう人ではない、近づくのは危険すぎる!!」
「……でも、兄さまが…。」
「あきらめるしかない。」
「兄さま…。」 
足取り重く家に帰り、シャンポリオンは南フランスに帰った。この上ないほど深刻な表情をして…。

「ヴィクトール御兄様!私に魔法を教えて下さい!」
「ティア、どうしたんだ急に。」
「ユークリッド兄さまが、オッド=スチューピッドになってしまったのです。ですから…私が力をつけて元の兄さまに…。あの時私は何もできなかったから…せめて…。」
「!!!…ティア、2人で練習してユークリッドを助けよう。そのためにドイツに飛ぶぞ!危険のない所で練習しないと危ないし、いつあいつが来るかわからない。」
 そして二人はドイツにリベカした。




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 少し肌寒い朝日が昇る少し前。いつものように早起きをして外へ出て、オッド=スチューピッドは公園へ軽い足取りで出かけた。
「はぁー、やはり海辺の朝日はすばらしいっ…まるで私のこの美しさのように。」
 彼は今、どこかで昇っているであろう朝日に向かってつぶやいた。(ちなみにこの日の天気予報は曇りのち雨、降水確立70%である。)海辺の高台にある公園、ここは近くに崖があるものの景観も美しく、そこに近付きさえしなければ静かで良い場所である。…あくまで彼がいない時の場合であるが。そこを彼は勝手に自分の魔法練習場にしていた。
「さて、今日も私の練習場に勝手に不法侵入しているふとどきな奴はいないなぁ~。」
 彼は公園を細かくチェックすると、早速魔法の練習を始めた。


「いくぞっ!はぁーテンペエースタァーッ!!

…何も起こらなかった。
「ふぅ、くそう…。」
 額に流れる汗(主に気合を入れて叫んだため)を拭きながらつぶやく彼を、一つの冷たい視線が見つめる。…野良犬だ。(この野良犬はどうやらこの辺りのボスのようだ。)その目つきは、いかにも(こいつ、ばかじゃねーの?)とでも言いたそうだ。彼はその視線に気づくと、そのデカサに少々ビビりつつも、
「くそう、私をバカにしたな!しかも犬ッ!この超天才黒魔導士である私のすっばらしい魔法を見せてやる!


マールーテーッ!!
!」

 彼の手から放たれた炎(ロウソクの火に毛が生えた程度)は犬の横を逸れて、側にあった木の葉を燃やし、ついでに焚き火…のはずであったがどう間違ったのか、彼の放った炎はその犬のしっぽに着火してしまったのだ。
「メ、メルクーリオー!」
さすがにこれはマズイと思ったのか、彼は水の魔法を唱えた。
「ふぅ、助かったな、犬。これからは私をバカにするのはやめて大人しく…あ゛ーッ!!」
 自分のしっぽを燃やされて怒った野良犬が牙をむき、彼に襲い掛かる。彼は走った。とにかく走った。
 気がつくと彼の目の前には断崖絶壁の崖が!!後ろからは少し離れて犬が!
「くそぅ!こうなったら宇宙の大爆発で犬をふっとばすしか…それが犬にとっても一番安全だ!」
 わけのわからない理由でウニヴェルソを唱えた彼。しかし、こんな足場の不安定な所で爆発を起こせば、結果はもちろん



 ドン!ガラガラ!! (足場崩壊)



「あーぎゃーぐぇーっっ!」
 情けない叫びと共に1.3mほど落下したところで木に引っ掛かった。
「ふうっ、何とか助かった。リアス式海岸はデンジャラスゾーンだぜ、まったく。」
 大勘違いをしているオッド=スチューピッド。彼はジャンプして崖の上に乗り直した。辺りを見回すと先ほどの犬は見当たらない。一段落したら急に空腹感が湧き上がった。そうなるや否や物凄いスピードで帰宅し、朝食を支度する。
「今日はちょっとリッチに納豆ヨーグルトサラダに金魚の刺身でも加えようか。うぉぅ!考えるだけでうまそうだぜ!」
 彼は金魚を池から素手で二、三匹捕まえてきた。
「ん?包丁がないではないか。し~いかたなーい。この私のダガーを使ってしまおう!」(本当はユークリッドの物)



 ダン!!


 ダガーを振り下ろしたその瞬間だった…。金魚は真っ二つ。それはまだわかる。
      ➟オッドの指も真っ二つ。
「フ~ッ、痛~っ!指を切ってしまった。いやはや…。」


 ぐちゅぅ


「よし、治った。う~む。金魚をおろすのはさすがの天才オッド=スチューピッドでもインポッシブルだったようだ。そのまま食べるとしよう。」

 ごきゅり

「う~ん、マイルドかつトレビア~ンなこの舌触り!これぞ究極の味!!!!」
 ひとまずオッドのオッドでスチューピッドな朝食は終わり、彼は家の外に出た。そして急に歌いだした。

あったーらしいー朝が来た、きーぼーうの朝がっジャンプ!」
 上空に何を思ったのか垂直飛びをしたオッド。“人間が空を飛べるのか”の知識に関してイカロス並の、いや、それ以下の彼は万有引力の法則の通り…

ズガーン


 騒音と共に頭からまっさかさまに落下。頭で穴を掘り進めながらまるで電気ドリルのように突き進み、行き着いた先。そこはまさにダンジョン。長い間人の手を加えた跡がない。自然の傑作と言える代物だ。中は暗くてよく見えないが、足音やかすかな物音の響きからすると相当奥まで続いていそうだ。
「うぉー!すっっっげぇ!!すっげぇ すげー すげー すげー …おっし!私が洞窟発見者だ。よく聞け洞窟!今日からお前は『新仏蘭西黒魔導士洞窟』だ。ありがたく思え。私の名を付けてやったのだからな。はーっはっはっは!!さて、中に入るとするか。長い洞窟っぽいので私の自慢のダッシュで行くとするか。陸上のコンコルドみたいにかぁっこいいぜ。くぅ~!いくぜ!マッハ18ー!!


 ガツン!ガリガリ ズグァーン ドシン!!

 (オッドが土壁にぶつかってそこにあった穴に落ちそうになって手で岩をつかんだがはずれてしまって見事に28m下に落ちた音)
「ぐぅ…今日は良く落ちる日だなぁ、私としたことが。」
 さっきからかすり傷一つできていない。一体彼の体は何で構成されているのだろうか…。
「はっ!!!こ…これはウシ?!」
 オッドが指先にマルテで明かりを灯した時、そこの壁には牛やら何やらの絵が描かれていた。
「う、牛、牛、牛がくいてぇ~!!!!」
 オッドがその指で壁の牛を触れた時だった。


 びしゅん!!!

 凄まじい音と光と共に彼の姿は消えた。